頸椎捻挫後の長引く痛みに関して(症例に基づいて)

【むちうち症例Aさん】 女性 30歳代前半

 

交通事故にて近所の整形外科を受診されました。その際、むちうち損傷の診断あり検査結果に異常所見は無く痛み止め(鎮痛薬)と湿布がだされしばらく様子をみるよう指示されました。

安静にしていたが徐々に痛みが増強し、夜間の持続的な痛み痛と動作時の痛みがきつく加えて全身の倦怠感が強く1週間後より転院とされてきました。

 

施術開始の時点ではかなりの頚部・肩部痛と頭痛を訴えられていました。

「信号待ちで停車中に突然後方より追突されました、事故された時のことはあまりよく覚えていません。そのときは、事故の日の夜もあまり痛みも無く「思ったより、軽くすんでよかったな」と家族で話していましたが、次の朝起きた時の首の違和感に始まり、痛みは日に日にはっきりしてきました。ついには痛みが強くなってきて仕事に行くことも出来なくなりました。

 

なんとなく気分も悪く食欲は無いですし、常に首の痛みが気になります。常に1日中痛いので気がおかしくなりそうです。病院の検査では「特に異常が無いからそのうち痛みは取れますよ」と説明されましたが、一向に痛みは減らないし薬も効かないのに本当に大丈夫なのでしょうか?湿布も貼っているときは効いている感じはしますが外すとすぐに気になります。ですからたくさん使うので皮膚がかぶれてしまいました。」

 

これは交通事故2週間後からの施術開始です。Aさんはこの2週間は頚部の痛みと肩部の痛みに悩まれ、体だけでなく精神的な不安など多くのものをいっぺんに抱えて苦しんでいらっしゃいました。

 

身体的には頚椎から肩部の筋の筋緊張はそれほど強くありませんでしたが、軽い圧迫の刺激に対しても本人は痛みが増強するように感じられました。外見的にも痛みを感じる皮膚・筋(患部)などの明らかな損傷や炎症による発赤・発熱などみられない状態です。

 

初期の判断としては、検査結果で異常が無く痛みを感じている患部にも炎症が明確でないのですが問診により炎症があるであろうということは分かっていました。しかし検査として明らかに異常はなく、このためAさんの場合は検査に出にくい靭帯や深部の小さな筋、神経の微細損傷が痛みの原因として考えられました。

 

施術を実施するために与えられた身体についての所見は、炎症がハッキリしない患部の痛みの存在と炎症の疑いという事実だけです。

 

Aさんやむちうち損傷(頸椎捻挫)の患者様に対して、最初に大切な説明としてお伝えしている内容は基本的には以下の6点です。

 

①痛みを共有するために何でも伝えていただく。

検査では明らかな異常がみられないということだが、現在の検査機器では発見できないだけで事故後に発症しているのですから、必ず何らかの身体の問題があり痛みを誘発しているということ。医師からは検査で異常が無いと言われるが自分は痛みが強いという事実を共有するため、できる限り細かいことでも施術者に伝えてほしいということ。

 

 

痛みはケガの大きさだけで痛みの強弱が決まるのでは無く、精神的なものストレスの影響で感じ方はとても大きくなるということ。事故にあったという事実に加え事故にあった車の心配、休んでいる仕事の心配・今後の収入の心配・家族および家庭の心配、思うように示談が進まないなど様々なストレスが発生し、そのため痛みを増強させる要因をすでに抱えている状態で、ストレスによる痛みをより強く感じることは当然の流れです。私が同じ立場でもやはり不安になると思われます。

 

 

②交通事故の治療は長期戦であることを理解していただく。

むちうちの痛み軽減は時間を要するということ。ある日突然に痛みが改善するということは無く、少しずつ徐々に痛みが軽減していくという経過が一般的です。一日単位でなく1ヶ月単位で振り返ると前より「痛みの質や程度が楽になったな」「今までできなかったこういうことも出来るようになったな」というふうに痛みや動作の変化をとらえやすいと思います。ですから焦らずどっしり構えましょうと言います。3か月ぐらいの長期戦は当たり前なのでどっしり構えてください。これ以降になると、どんどん痛みが強くなり動けなくなるということはまずありません。

 

 

③初回治療はまず様子見であるということ。

初期の施術としては、患部の痛みを感じやすい部位に軽い刺激を行っていきその反応を見たうえで治療計画を立てます。ですから初回のリハビリは患部を積極的に触ることはなく軽めの処置となります。そうしてはいても中には夜間などに痛みや頭痛が増すこともみられますがそれだけ炎症症状や筋肉の過緊張が隠れているということの証明になります。施術も1回で完全に治るというものではありません、根気よく施術を受けていくことで日常の痛みの出方も軽減していきます。

 

④患者様の時期の見極めに応じて施術法を変えるということ

急性期の痛みが減少し、施術に対して心地よく感じたりするようになるとほぼ急性期の時期は過ぎていると思われます。完全に急性期でないと判断する場合もありますがこの時期に入ると患部への施術に対する耐性が上がってきます。ストレッチをはじめマッサージ刺激に耐えられるようになります。この時期より積極的に運動療法を導入していきます。「時間が経過したり、薬を飲んで安静にしていると痛みが治り、放っておいても動けるようになり仕事も出来るという考え方ではなく、積極的に運動などを実施して事故の前の体を作っていくという目的をもつようにしましょう。

 

 

⑤施術(リハビリ)は勉強でいうところの家庭教師のようなもの

患部が刺激に対して強くなると、軽い運動を導入することができます。軽い運動後にもだるさや痛みが出ない状態にまで安定しますと、さらに患部に負荷をかける量を増強できます。施術所で患部に負荷を与える時期→軽い運動療法導入→さらなる負荷量の増大→治癒へと進むのですが、この全て段階をのステップアップする時期では生活内での活動量の増加があります。加えてリハビリでも負荷量や運動量を増やす場合もあり。このため、ステップアップのたびに疲労性による痛みの一時的な増加がみられることがあります。

 

事故後、しばらくの間は自宅での生活をするだけでも相当な負担ですし、さらに仕事復帰された直後は普段の痛みがほとんど見られないまでに改善していた人でも、「かなりきつくて痛みが増す」と言われる方が多いです。

 

⑥交通事故、むちうちの痛みは完全にとれるものばかりではありません。

最後に必ずお伝えすることですが、通常むちうちの痛みの治療は3か月から6か月ぐらいかかることが多いのですが、そこまで施術をしても完全に痛みが取れるものばかりではありません。事故後、早期に施術を開始することで軽減できる場合もあります。しかし6ヶ月~1年経過した後でも痛みが残存し悩まれている人もおられます。こういう場合は後遺障害の認定を受けることになります。しかし後遺障害認定には整形外科医の診断が必要になりますので整骨院と並行して状態を確認いただくことが一般的です。

 

Aさんには施術の初期の段階より上記の内容を説明するようにしました。事故にあわれた方はどこに、誰に相談したらいいのかわからないという方がほとんどです。

 

不安を取り除くために出来るのはしっかり話を聞くことときちんと事故のことケガのことを理解していただくことが重要になります。

 

私が担当したむちうち損傷の患者さんの中でも、Aさんは痛みが非常に強いタイプの方でしたが、私の説明に早くから理解を示していただき痛みに対してだけでなく施術に関して、事故の処理に関して理解が深まっていくとそれまでの不安が減り、治療に専念することができたとおっしゃっていただきました。